フランス語にはグレーヴ(greve)という単語がある。日本ならストライキという言葉は知らなくても生活することができる。でもフランスに行くならグレーヴは挨拶の言葉と同じくらいに身のまわりについてくる。
郵便局がグレーヴならその間は速達の郵便物でも運ばれない。テレビにトラックがたくさん並んでいる光景が映ると心配することが増える。警察でも病院でも学校でも変わらない。グレーヴの間にすごい事件があったり重い病気になったらどうしようと考えることは決して情けないことではないけど、フランスのひとはもう少しその前と後ろのことを考えているのかもしれない。大統領や首相や大臣以外はみんなグレーヴをすると言われてもそんなに大げさには聞こえない。
交通機関のグレーヴはまるで天気が崩れるかのように起こる。だから出かけるときは気をつけるようになる。それでも旅の途中で起こってしまったらあきらめるしかない。フランスではトイレに行きたくなるのも病気になるのも運が悪いのも悪いのは自分だけだ。
フランスに行って始めの数か月は僕は語学学校に行く時間を作った。今になれば貴重な時間だった。その国の文化や言葉と付き合うのなら文法を勉強するということは堅苦しいことじゃない。それに料理やサービスなんて料理やサービスの中だけにあるわけじゃない。その分野の知識だけと一緒に食事をしてもきっと楽しくない。
授業では先生がひとつ話題を出してそれについてみんなが意見する時間があった。その話題がグレーヴのときもあった。色んな国から生徒が来ていたけどこういう内容のときはやっぱり先生は日本人にしゃべらせようとする。そのときは僕はまだあまり話せなかった。でももし話せたとしても日本で育った人間には面白いことは話せないかもしれない。火事が起きたらいつだって消防車に来てほしい。
フランスにうらやましいところはたくさんあるけど東京で同じことはできない。でも守るものは守っておかないときっといつか守るものが少なくなってしまう。これからも毎日ご飯は食べるし飲みたい時間もある。たくさんのことの中でもそれはいつでも大切なことのひとつに入る。
*「greve」の実際の表記にはアクサン・グラーヴが必要です。