今年の3月に日比谷のみゆき座が閉館した。みゆき座に行ったことはあったはずだけど僕にはあまり覚えていることはなかった。それでもポスターなどでの「みゆき座ほかでロードショー」のフレーズは教科書の言葉みたいだった。なにかの顔のような映画館だった。
閉館直前の数日間は、開館当時の入場料金で特集上映をするということだった。300円という数字も目立ったけど、僕の目が止まったのはそのプログラムの中に「リバー・ランズ・スルー・イット」があったからだった。
家族と自然の物語で、人間と神との物語。ロバート・レッドフォードは、そのどこに美しさがあるのかを描いている。厳格な牧師の父親と控えめな母親、生真面目な兄と奔放な弟。片田舎の自然の中でレッドフォードは普通の人々を撮っている。
フライフィッシングの釣り糸を振り下ろす行為が、神の作った川の流れに触れることなのだとするなら、この作品の映像はきっとそれを裏切ってはいない。他の作品では少し地味なイメージのあるマーク・アイシャムのスコアも心地よく流されている。
物語の最後の悲劇の起こる直前に、いつもの美しい川で弟役のブラッド・ピットが見たことのないような大きな魚を釣り上げる。笑顔と光で輝くその姿をとらえて映像が止まる。そして兄の言葉でたしか次のようなナレーションが入る。「その瞬間僕は見た 完成されたものの美を」。レッドフォードの再来などと言われていたけど、当時のピットはまだ若手俳優という位置にいた。そのレッドフォードの作品のこの瞬間には、初めて釣り糸が水面に届いたような印象を受けた。この作品のナレーションはすべてレッドフォードが担当している。
主演作に大きなヒットがないと言われるピットだけど、彼が監督を選んで仕事をしているのは明らかだ。冬の季節に寒いですねと言うようなことかもしれないけど、僕はブラッド・ピットという俳優がすごく好きだ。大きな映画館で見る価値のある瞬間がある。
*「riviere」の実際の表記にはアクサン・グラーヴが必要です。