クリスマスが終わって年末の仕事が終わると新しい年がやってくる。東京が急に静かになる。初詣の場所に大勢の人が詰め掛けるとしても、いつもの朝の電車なんかと比べたら大したことはない。街の中が軽くなっているときはちょっと出掛けたくなる。お正月の東京を僕はいつも楽しみにしている。
canvasが迎える5回目の年末年始も、定休日以外はお店はずっと営業することにした。5年前の開店のときに僕がいちばん描いていた絵は、クリスマスとかではなくて、この時期に店が開いていることだった。どこにも行く場所がないときは、僕はおいしいものを食べに出掛けたり一杯のお茶を飲みに行きたくなる。自分の場合はそういう気分がこの時期にやってくることが多かったから、まずは自分で一つ納得できる場所を作っておきたかった。
実際には、わずか一週間前のクリスマスが夢だったのかと思うくらいにお客さんは少ない。だけど一人でゆっくり来てくれるひとも多いし僕が会いたいひとに会えるのもこの時期は不思議と増える。他にはない普通の時間を過ごしてもらえたら嬉しい。
仕事の電話がかかってくることもないし、急にどこかに行く用事もできないから、そんなときはちょっと力を抜いて好きな仕事をしてみようと思う。
今年から作っているガレット・デ・ロワは継続して作ることにした。フランスで食べたガレット・デ・ロワはおいしくないものが多かったから、楽しいお菓子のイメージがなかった。でも試作のものを食べたらよくできていたし、時間が経ってから温めて食べてもおいしい。冬のデザートとしていい生地かもしれない。来年は自分でも買って帰って一切れくらいは食べてみようと思う。
バレンタインにはマカロンを準備することに決めた。今年の秋から色んな味のものを作っていて、お客さんが喜んでくれることが多かった。マカロンというとパティスリーのイメージが強いけど、最近の小さくて価格の高いマカロンを見ていて、レストランの範疇で表現しても面白いかなと思っていた。その大きさでその値段になるのも構わないけど、意地悪な言い方をするなら僕にはそうなる理由は説明しづらい。まさかマカロン一つでデザートをおしまいにできるほど上品な人は多くないと思うから、それならあの大きさなら適する場所はデザートの後のティーソーサーの上のティースプーンの上。デザートとして食べるなら何個か食べたくなると思うから、せめてアラカルトのデザートの価格くらいにしたい。僕はあまりチョコレートが好きではない。チョコレートというものはすでに完成されているものだから、チョコレートはもうチョコレート。あまりレストランで表現するのは似合わないアイテムだと思っている。2月はレモンの季節でもあるし、バレンタインだからといってチョコレート味だけにするつもりもない。レストラン的に少し試してみたいと思う。
その2月にcanvasは5周年になる。僕はあまり特別なことは好きではないけど、そのときは5年の時間を込めた記念のメニューを作ってみようと思う。こういう場所でこういうことをやってきたというだけでもいい。僕の世代にしかないもの、この5年間にあった流行などを混ぜられたらいい。開店のときの立会川を思い出して、アミューズにボラのエスカベッシュなんてどうかな、なんてスタッフに提案したら却下されてしまった。でも海のボラなら何とかなるんじゃないの、なんて話したり。お正月はそんな時間になる。